THE PAWN SHOP, KAITOLOGY
2023年11月にオープンした広島県広島市にある質・買取店「KAITOLOGY(カイトロジー)」
JR広島駅から路面電車で10分の紙屋町駅から、3分ほど歩いた広島本通商店街の中に店舗を構えています。
質の歴史は土倉(とくら)から始まったと言われ、鎌倉時代から庶民の金融機関として700年以上続いていますが、現在は全国の質屋登録がピーク時の1/10まで減っています。
質と買取の大きな違いは「お金を返すことで店舗に渡した品物が再度戻ってくる」という点です。そのため、一般ユーザーが不用品販売による現金入手のツールとしてメルカリやヤフオクなどのデジタル媒体が席巻したかのように見える今でも、質屋としては大黒屋やセキネが、ブランド買取店としてはコメ兵や買取大吉などの大手チェーン店が全国展開し、多くのお客様から根強く必要とされている業界です。
本計画のオーナー様は、そのような大手買取店のフランチャイズ店舗を経営を通して、「SDGsが謳われる昨今、モノを大切にし、再利用することを業界の中で立場を確立して発信していくことで持続可能な社会の実現に貢献したい」「サステナブルなイメージをまだ確立できていない質・買取業界に新しい風を吹かせたい」という想いのもと、新業態の進出を決めたそうです。
私たちはその想いをふまえ、空間と演出を簡素な従来のスタイルから一新し、豊かな空間を持つ質・買取店としてのブランドを確立することで、「リラックスして商談できる」「接客というサービスによりファンが増える」「何度も気軽に訪れたくなる」「大切な品を安心して預けられる」店舗空間を提案し、お客様が多様な店舗から「大切な一品と向き合える場所」を選択できることを目指しました。
本物件は、飲食・物販店舗のチェーン店が立ち並び、周辺の大きな広告と看板・電柱が喧騒を生み出す商店街の中に位置しています。このような周辺環境のなかで存在感を際立たせるため、全体のデザインをあえてシンプルなものとし、ホワイトをベースとしたカラーリング、曲線を用いた柔らかさや、丸みを持たせることで、“浮遊感のある”エントランス演出を考えました。
既存の建物は、左隣の店舗と元々1店舗だったものを2分割しており、間口となる短手が2m以下、奥行きは12mという、鰻の寝床のような平面をしていました。この既存平面を活かすため、正面から奥の階段へとまっすぐ続く0.9mの歩廊を確保し、その片側に必要な機能となるウェルカムエントランス、サービスブース、グリーンヴォイド、バックオフィスが’’くっつく’’ようなゾーニング計画としました。
_ファサードを引き込むゾーニングダイヤグラム
―FAÇADE・SIGN
ファサードは、入口を少しでも広く引き込んだ演出するため、2階部分をセットバックさせ、吹き抜けを設けることで、エントランス部分を広げることによる入りやすい場所としました。さらに、エントランス上部には曲線による誘因性を持たせた店舗名のメインサイン、外壁上部には視認性の高い「質・買取」の巨大な文字サイン、アイレベルには買取対象商品を伝えるピクトアイコンを設えることで、商店街という徒歩移動がメインの商業空間の動線上において店舗との距離に関わらずお店の業種・情報が伝わる仕掛けとしました。人目を惹く大きなウェルカムツリーは、見る角度によってハート型に見えることから、店舗のアイコンに、そして街と人々の新たなシンボルとなることを目指しました。
メインとなるサービスブース入口は土倉の門をくぐるような暖簾を設え、ブース全体に透明性を持たせる空気感を与えることで、オープンな雰囲気でありながらプライバシーを守り、一人ひとりと時間をかけて向き合うことのできる場としました。ブースと歩廊との間には、土倉の土壁に用いる下地である貫と竹小舞から着想し、アルミ丸パイプを@60のピッチで配置することで、人の目線を遮るパーティションとしての役割も果たします。
さらに、このパイプに対して広島県の伝統工芸である熊野筆から着想したグラデーショナルな陰影と光沢感のある仕上げを施すことで、ラグジュアリーな体験を演出します。そうすることで、真鍮とシルバーのペインティングによって日本画のような陰影が現れ、自然光や照明、さらに奥行のある歩廊からの見る場所によって、シンプルながらもラグジュアリーを感じるディテールと美しさを両立した空間演出を実現しました。
―方向性の確認
まず初めにChatGPTを用いてインテリアの方向性を共有したうえで抽出した「モダン」・「ボタニカル」・「ラウンジ」という3つのキーワードから想起されるような“上質感をまとった空間”を、目指すべきブランドイメージとして共通認識の形成を行いました。
新業態のため社名・店名が決まっていなかったことから、初回打合せの場で、事前のヒアリングをもとに、わかりやすい、ユーザー様に覚えてもらいやすい店名を提案しました。名前を付けることで、より愛着が生まれ、参加するメンバーにも店のコンセプトが共通認識となるためです。
数パターンご提案し、改めてどんなお店にしたいか、今後目指す方向性をすり合わせたうえで「お客様に根拠あるロジカルな数字やご提案ができるクリーンなイメージに合う」ということで買取+ロジカルを掛け合わせたKAITOLOGYと命名されました。
ロゴマークは、カイトロジーのKをモチーフに、モノを大切にしたいという想いから中心に煌めきを表現し、旗艦店となる本店舗ファサードの両サイドにある、高く伸びる柱をイメージしました。
令和の時代は、日本社会を大きく成長させた消費社会を見直して3R(リデュース・リユース・リサイクル)が当たり前となった平成から、さらに一歩踏み出した【選択社会】への転換期だと考えています。
そのために私たちは、今回のオーナー様のように【良い物を長く使い】【大切なものはずっと大切に】したいという思想が社会に広まるような仕掛け・装置を提供することができる立場であり、その自覚を持つことが次世代を担うデザイナーの宿命であると信じています。
本プロジェクトにおいては、リラックスして対話ができる空間に大きな可能性を感じ、装置として実現しました。
このような場所での体験を通して、価値を再定義しながら、継承し続けていくという考え方が広まることで、ブランド品や高級品だけでなく、誰かが作ったプロダクトや空間が、愛され、大切にされるような持続可能社会を実現するための第一歩となることを願います。
ARCHITECT: NOW
PROJECT TEAM: GEN SUZUKI,SAYOKO KUMAGAI
CONSTRUCTION: DATE CORPOLATION
Original Paint:CYUON
Photo: Regart
YEAR: 2023









